社会・論考

日本社会はなぜ孤独化したのか
縁が「選ぶもの」になった代償

関口美奈子

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
最初に、少し意外なことをお伝えします。
日本がこれほど孤独になったのは、社会が冷たく壊れたからではありません。
むしろ私たちが「自由」を手に入れた、その成功の代償として起きているんです。

孤独は「社会が壊れた」から起きたのではない

数字を見てみましょう。
2020年の国勢調査で、ひとり暮らしの「単独世帯」は全世帯の32.4%。
夫婦と子の世帯を抜いて、もう日本でいちばん多い暮らし方になっています。

そしてこの先、2050年には44.3%。
国の推計では、日本の世帯のおよそ「2つに1つ」が、ひとり暮らしになると見込まれています。

これだけ見ると、「人と人のつながりが壊れた」と感じますよね。
でも、私はそうは思わないんです。
つながりは壊されたのではなく、「選べるもの」に変わった。それだけなんですよね。

縁(えん)の市場化(しじょうか)という正体

昔の日本では、縁は“配給”されるものでした。
生まれた家、住む地域、勤めた会社が、結婚相手も友人も居場所も、半ば自動的に用意してくれた。
お見合いも、町内会も、社員旅行も、その配給装置だったわけです。

ところが今、その装置はほとんど消えました。
代わりに私たちは、縁を自分で「選び、選ばれる」ようになった。
恋愛も、結婚も、友人も、住む場所も、ぜんぶ自分の選択。
これはもう、ひとつの市場です。縁が市場に乗った。「縁の市場化」です。

市場化は、悪いことばかりではありません。
家や地域に縛られず、好きな相手と、好きな場所で生きられる。
これは人類が長く望んできた「自由」そのものですよね。

配給装置はどう消えたのか:「家族の外注化」と、ゆるい縁の消滅

縁を配給していた装置は、ある日突然なくなったわけではありません。一つずつ、静かに外へ出ていきました。

ひと昔前の家族と地域は、人生に必要な仕事のほとんどを自分たちの手でこなす、いわば「総合企業」でした。食事づくりも、家計も、介護も、看取りも、そして結婚相手を見つけることまで。お見合いをまとめる世話好きな人が近所にいて、お年寄りは家で看取る。それが当たり前だったんですよね。

社会が豊かになるにつれ、その仕事は家族の外へ移っていきます。介護は施設やヘルパーさんへ。食事は外食やお惣菜へ。縁結びは、世話好きな人から結婚相談所やマッチングアプリへ。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、恋愛結婚がお見合い結婚を上回ったのは1960年代後半のこと。家族が握っていた仕事のなかで、縁を結ぶ仕事は、いちばん早く外へ出たものの一つでした。これが「家族の外注化」です。

外注化そのものは、進歩です。プロに任せたほうが安心なことは、たくさんあります。ただ、機能を手放した家族に最後に残ったのは、「愛し合うこと」という、いちばん純度が高くて、いちばん壊れやすい仕事だけでした。「家族なんだから、わかり合えて当たり前」。その期待が重くなりすぎて、すれ違ったときの傷も深くなる。絆が弱くなったのではなく、絆に求めるものが重くなりすぎたのだと私は考えています。

そしてもう一つ、もっと静かに消えたものがあります。町内会や近所づきあいのような、深くはないけれど、たしかにそこにあった「ゆるい縁」です。この中間のつながりが消えると、人に残るのは「家族という強い絆」か「ひとりの無縁」か、その両極端だけになります。単独世帯がいちばん多い暮らし方になったことと、ゆるい縁の消滅は地続きなんですよね。

配給装置が外注され、その受け皿が市場になった。ここまで来ると、縁の市場化は誰かが仕組んだものではなく、私たちが便利さと自由を選んできた結果だということが見えてきます。

ただし市場は、「あぶれる人」を生む

でも、市場には冷たいルールがひとつあります。
選ぶ自由があるということは、選ばれない自由も生まれる、ということ。

配給ならば全員に行き渡ったものが、市場では「選ばれた人」に集中します。
その結果、構造上どうしても「あぶれる人」が出てしまうんですね。

これは数字にもはっきり表れています。
2020年時点で、50歳までに一度も結婚しない人の割合は、男性で約28%、女性で約18%。
2024年の出生数は約72万人と、9年連続で過去最少を更新しました。合計特殊出生率は1.15と、これも過去最低です。

国立社会保障・人口問題研究所や総務省の統計を追っていくと見えてくるのは、
日本の少子化の大きな原因が、子どもを持たないことよりも、そもそも結婚に至らない人が増えたこと、つまり未婚化だということです。結婚相談所の現場で向き合っていても、実感はまったく同じです。
縁の市場から落ちてしまう人が増えれば、当然、その先にある家族も子どもも減っていく。これは一本の線でつながっているんです。

未婚化の濃さは、街ごとに違います。東京23区と政令市は、年代別の未婚率を市区町村別の結婚データで全国と比べられます。

だから、孤独はあなたの努力不足ではありません

ここがいちばんお伝えしたいところです。

「自分に魅力がないから、選ばれないんだ」
「結婚できないのは、努力が足りないからだ」
そう自分を責めている方が、本当にたくさんいます。

でも、考えてみてください。
市場のルールそのものが「あぶれる人」を生み出している以上、それはあなた個人の欠陥ではないんです。
あなたが落ちたのではなく、仕組みが人を落とすようにできている。
歴史をさかのぼるほど、私はそう確信するようになりました。

個人の「持てる力」と、社会の「再設計」の両輪で

では、どうすればいいのか。私は両輪が必要だと思っています。

ひとつは、個人の力。
縁の市場で選ばれ続ける人には、共通点があります。
それは、相手に先に与える心の余裕があり、安心感があって、楽観的で誠実なこと。
それが「持てる人(者)」の心情です。これは生まれつきではなく、誰でも育てられる力ですよ。

でも、それだけでは足りません。
もうひとつは、社会の側の再設計です。
市場から落ちた人を「自己責任」と切り捨てれば、孤独はますます深まります。
2024年には孤独・孤立対策推進法も施行されました。けれど、婚活支援や出産の補助だけでは、市場のルールそのものは変わりません。
本当に問われているのは、「縁を配給する装置」を、現代の形でどう作り直すか。これは立派な政治と社会の課題です。

孤独も、未婚化も、少子化も、あなた一人の心がけで背負う問題ではありません。
個人としてできることはやりながら、同時に「これは社会構造の問題だ」と声に出していく。
その両方を持てる人が、これからの時代をいちばん豊かに生きていけると、私は信じています。

出典:総務省「国勢調査(2020年)」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2024年推計)」、厚生労働省「人口動態統計(2024年)」。
関連して、個人の側からの恋愛・婚活の考え方は婚活がうまくいく人の心理学でも書いています。

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よくある質問

日本社会はなぜ孤独化したのですか?
社会が壊れたからではなく、かつて家族や地域が無償で担っていた「縁」が、お金で買うサービスに置き換わったからです。縁が市場で選び合うものになった。それが「縁の市場化」です。
未婚化や少子化は個人の努力不足ですか?
違います。市場化が進めば「あぶれる人」が出るのは避けられない。それと同じ構造の問題です。孤独や未婚はあなたの努力不足ではなく、社会の設計から生じています。
孤独化にどう向き合えばいいですか?
個人が縁を育てる「持てる力」と、社会が支え合いを再設計する両輪で向き合うことです。個人の頑張りだけに帰さず、仕組みごと問い直す視点が要ります。

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