恋愛・結婚

シチュエーションシップとは
「名前のない関係」は自由か、保留か

関口美奈子

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
最近、「シチュエーションシップ」という言葉をよく耳にするようになりました。恋人という名前を付けないまま、デートも連絡も続いていく。定義されない関係を指す言葉として、欧米からZ世代を中心に広まり、メディアやSNSで話題になっています。
結論から言います。名前のない関係の多くは、自由なのではなく、どちらかの決断が保留されている状態です。のべ3万人以上の男女と向き合ってきた立場から、この言葉の中身を一段深く解いていきます。

シチュエーションシップとは|定義と、言葉が生まれた背景

シチュエーションシップとは、恋人(リレーションシップ)と呼び合う手前の、状況(シチュエーション)だけが続く関係を指す言葉として使われています。二人で食事に行き、連絡を取り合い、時には恋人同士のような時間も過ごす。それなのに「私たちは何なのか」という定義だけが、いつまでも交わされない。日本語で言えば友達以上恋人未満に近い状態ですが、ニュアンスは少し違います。友達以上恋人未満が「まだ踏み出せていない片思いの膠着」を含むのに対し、シチュエーションシップは中身はほとんど恋人なのに、名前だけが空欄という状態を指すことが多いのです。

この言葉が海の向こうで生まれ、日本でも受け入れられたこと自体が、一つの時代の症状だと私は見ています。かつては「付き合っているの、いないの」という二択しかなかった場所に、第三の棚が用意された。棚に名前が付いたことで、そこに置かれた関係は「よくあること」になり、居座りやすくなりました。言葉は現象を説明するだけでなく、現象を定着させもする。だからこそ、この言葉を流行として眺めるのではなく、構造として理解しておく必要があります。

なぜ今、「名前のない関係」が増えているのか

第一の背景は、選択肢の増えすぎです。マッチングアプリを開けば、出会いの候補は事実上無限に表示されます。心理学では、選択肢が多すぎると人はかえって決められなくなることが知られています。いわゆる決定回避です。「この人に決める」という行為は、他の可能性をすべて手放す行為でもある。候補が見え続ける環境では、一人を確定させることの心理的コストが、かつてなく高くなっているのです。

第二の背景は、損失回避の心理です。人は、何かを得る喜びよりも、失う痛みを大きく感じる生き物です。関係に名前を付けようとすれば、断られて今の心地よさごと失うリスクが生まれます。名前を付けなければ、そのリスクはゼロのまま。つまり名前のない関係とは、傷つく可能性を先送りする仕組みとして、とてもよくできているのです。よくできているからこそ、抜け出しにくい。

さらに最近では、AIとの対話に恋人のような親密さを見いだす「AIシチュエーションシップ」という派生語まで生まれています。相手が人間ですらなくなっても、定義しないまま親密さだけを受け取る形は同じです。この現象についてはAI恋人についての記事で詳しく書きましたが、根っこにあるのは共通して「拒絶される可能性を排除したい」という心理です。

「自由な関係」の中で、本当に起きていること

シチュエーションシップは、よく「束縛のない自由な関係」と語られます。けれど、のべ3万人以上の恋愛相談を受けてきた実感から言えば、当事者の心の中で起きていることは、自由とはほど遠い。名前のない関係は、自由ではなく保留です。そして保留は、二人に平等には配られません。

関係に名前がないということは、期待していい範囲が定義されていないということです。週末に会えるのか、連絡が一日途切れたら心配していいのか、他の人と会っていても責められないのか。恋人という名前は、実はこうした期待値の契約書の役割を果たしています。契約書がない関係では、不安になる権利すら持てない。「私たち、付き合ってもいないのに重いと思われたくない」と、感情の置き場を失っていくのです。

もう一つの現実は、非対称性です。名前のない関係では多くの場合、片方は「いずれ恋人になれたら」と願い、もう片方は「今のままが楽だ」と感じています。保留で得をしているのは、決めたくない側です。そして結婚を視野に入れている人にとって、この保留には見えない値札が付いています。定義されない関係に注いだ時間は、他の出会いに使えたはずの時間でもある。曖昧さの機会費用は、婚活においては決して小さくありません。

曖昧な関係から抜け出すには|関係を定義する会話の技術

では、どうすればいいのか。答えは一つで、関係を定義する会話をすることです。ただし、いきなり「私たちって何?」と相手に丸ごと委ねる聞き方はおすすめしません。それは質問というより採点の依頼で、相手を身構えさせます。順番が大事です。先に自分がどうしたいかを決め、それから相手に枠を差し出す。「私はあなたと、ちゃんと恋人としてやっていきたいと思っている。あなたはこの関係をどう考えている?」。自分の旗を先に立てるから、相手も本音を出しやすくなります。返報性、つまり先に開示した相手には自分も開示したくなる心理は、こういう場面でこそ働きます。

それでも聞けない、という方に一つ気づいてほしいことがあります。あなたが怖いのは、実は相手の「答え」ではありません。怖いのは、保留が終わることです。聞かない限り、「いつか恋人になれるかもしれない」という可能性の中に住み続けられる。その住み心地の良さが、あなたを黙らせています。けれど、可能性の中には未来がありません。どんな答えが返ってきても、保留の終わりは前進です。望む答えなら関係が始まり、望まない答えなら、あなたの時間が解放されます。

タイミングの目安については、付き合うまでの期間についての記事で詳しく書いていますが、大切なのは日数そのものではなく、「定義の会話を先延ばしにする理由が、もう見当たらない」と気づくことです。会う回数を重ねても関係の名前が変わらないなら、それは熟成ではなく停滞かもしれません。

まとめ:名前を付けるとは、時間に責任を持つこと

シチュエーションシップという言葉が広まったこと自体は、悪いことではないと思っています。曖昧な関係に名前が付いたおかげで、「自分は今、定義されない場所にいる」と自覚できる人が増えたからです。問題は、その棚を終の住処にしてしまうことです。名前のない関係は、始まってもいなければ、終わってもいない。始まっていないものは育たず、終わっていないものは次を始めさせてくれません

関係に名前を付けるとは、相手を縛ることではなく、お互いの時間に責任を持つことです。あなたの時間は、可能性のまま寝かせておくには惜しいものです。もし今、名前のない関係の中にいるなら、自分の旗を立てて、定義する会話を始めてみてください。保留の外にしか、未来はありません。

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よくある質問

シチュエーションシップとはどういう意味ですか?
欧米発でZ世代を中心にSNSで広まった言葉で、恋人という名前を付けないまま、デートや連絡といった恋人らしい関わりが続く関係を指して、そう呼ばれています。日本語の「友達以上恋人未満」に近いですが、中身はほとんど恋人なのに、関係の定義だけが交わされていない点が特徴です。
シチュエーションシップは悪いことですか?
関係の形そのものが悪いわけではありません。二人が同じ認識を共有し、同じ温度で納得しているなら、一つの選択です。問題になるのは、片方だけが進展を望んでいるのに、それを言い出せないまま続く非対称な状態です。結婚を視野に入れているなら、定義されない関係に使う時間の機会費用も含めて考える必要があります。
曖昧な関係をはっきりさせるにはどうすればいいですか?
相手を問い詰めるのではなく、先に自分の希望を決めてから、「私はこの関係をこう考えたい。あなたはどう思っている?」と自分の側から枠を差し出すことです。聞くのが怖いのは、相手の答えそのものではなく、保留という猶予が終わることへの怖さです。どんな答えでも、保留の終わりは前進です。
シチュエーションシップの終わらせ方は?
フェードアウトではなく、短くてもいいので言葉で区切りをつけることをおすすめします。「名前のある関係に進みたい」と自分の希望を伝え、相手の答えが保留のままなら、その保留を答えとして受け取って離れる。関係に名前がなかったとしても、終わりにだけは名前をつけたほうが、次に進む足取りが軽くなります。
体の関係があるのに恋人ではないのも、シチュエーションシップですか?
親密さだけが先に進み、関係の定義が二人の間で合意されていないなら、その一つの形といえます。本質は体の関係の有無ではなく、「この関係を何と呼ぶか」を二人が話せているかどうかです。定義が曖昧なまま親密さだけが深まるほど、期待の食い違いと立場の非対称が生まれやすくなります。

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