こんにちは。関口美奈子です。
地方で婚活をしている方から、よくこんな声を聞きます。「この町には、本当にいい人がいないんです」。
これを「選り好みのしすぎ」と片づけるのは、あまりに気の毒だと私は思います。だって、それは気のせいではないからです。地方では、結婚相手そのものが地理的に偏り、いわば“在庫切れ”を起こしている。私はこの現象を「縁の偏在」と呼んでいます。
地方で起きている、縁の「在庫切れ」
まず、人の動きを見てみましょう。
進学や就職を機に、若い人は都市へ出ていきます。なかでも近年、若い女性の都市への流出が顕著だと指摘されています(総務省の人口移動に関する統計など)。地元に残るのは男性が多くなり、結果として地方では、若い世代の男女のバランスが大きく崩れていきます。
つまり、地方の独身男性が「いい人がいない」と感じるのは、努力不足のせいではありません。そもそも出会うべき相手が、地理的にその場所から減ってしまっている。恋愛や婚活は、どんなに頑張っても、近くにいる人の中からしか始められません。母集団が痩せてしまえば、確率そのものが下がるんですね。
「縁の偏在」という、見えない地理
ここで、ひとつの見方をご提案します。
出会いとは、ロマンチックな運命であると同時に、じつは「確率」と「地理」の問題でもある、ということです。
どれだけ素敵な人でも、半径数十キロに同世代の独身者が少なければ、出会いの数は物理的に限られます。逆に、人が多く集まる場所にいるだけで、縁の機会はぐっと増える。
このように、縁が地域によって濃かったり薄かったりする偏りを、私は「縁の偏在」と呼んでいます。あなたの結婚の難しさは、あなたの価値の問題ではなく、あなたが立っている場所の人口構造の問題であることが、とても多いんです。これは、自分を責めてきた多くの人に、ぜひ知ってほしい視点です。
かつては、地域が縁を結んでいた
では、昔の地方は、なぜ結婚できていたのでしょう。
そこには、いまは失われたしくみがありました。
以前のコラムでお話ししたように、かつては地域共同体や親戚、世話好きの仲人が、縁を結ぶ役割を担っていました。「あそこの息子に、こちらの娘を」と、人が人をつなぐ網の目が、村のなかに張りめぐらされていたんですね。
その網が、地域のつながりの希薄化とともにほどけてしまった。残されたのは、自分一人の力で相手を探さなければならない、むき出しの個人です。「縁の市場化」と「地域共同体の崩壊」が、地方ではとりわけ重く響いている。縁の偏在は、人口の偏りと、縁を結ぶしくみの消失が、重なって生まれているんです。
偏在を、二つの方向からほどく
では、どうすればいいのでしょう。私は、二つの方向から考えています。
ひとつは、一人ひとりの工夫です。
大切なのは、出会いの「母集団」を、意識して広げること。近隣だけで探すのをやめ、少し足をのばす。オンラインを使って地理の壁を越える。あるいは、思いきって人の多い場所へ環境を移すのも、立派な戦略です。そして出会えた相手には、損得を超えて先に与えられる「持てる人」のあたたかさで向き合う。狭い在庫の中で減点し合っていては、もったいないですからね。
もうひとつは、社会の側の、もっと大きな仕事です。
そもそも、なぜ若い人が——とりわけ若い女性が——地方を出ていくのか。そこには、地元に望む仕事が少ない、価値観が古い、自分らしく生きにくい、といった切実な理由があります。若い世代が「ここに残りたい」と思える雇用と環境を地方につくること。それは、まわりまわって縁の偏在をやわらげ、結婚や出産の土台を取り戻すことにつながります。少子化対策と地方創生は、じつは同じひとつの課題なんですよね。
「いい人がいない」の裏側には、地理があり、人口があり、政治がある。そう知るだけで、自分を責める必要などないことが、見えてくるはずです。
出典:総務省「住民基本台帳人口移動報告」「国勢調査」(若年層・女性の人口移動、地域別の人口構成)、国立社会保障・人口問題研究所の関連調査。具体的な数値を断定する記述は避け、傾向として記述しています。