日本でいちばん
孤独なのは誰か

関口美奈子

こんにちは。関口美奈子です。
「日本でいちばん孤独なのは誰だと思いますか?」
多くの方が、一人暮らしの高齢者や、若い女性を思い浮かべるかもしれません。
けれど、孤立して亡くなる方の現場でいちばん多いのは——貧しい人でも、お年寄りでもなく、つい昨日まで“働き盛り”だった中年の男性なんです。私はこの、ある日ふっつりと音を立てなくなる男性のつながりを「沈黙する縁」と呼んでいます。

孤立死の「主役」は、働き盛りだった男性

少しショッキングな話から始めます。
東京都監察医務院が扱う、単身世帯の自宅での死亡。そのデータを見ると、男性は女性を大きく上回り、しかも年齢は高齢者だけでなく、50代・60代の中高年男性に厚く集中しています。

「孤独死」と聞くと、私たちはつい高齢者の問題だと考えます。でも実際には、定年を迎える前の、まだ働いている世代の男性が、誰にも気づかれずに亡くなっている。これが日本の、あまり語られない現実なんですね。

なぜ男性の縁は、こんなに簡単に切れてしまうのか

では、なぜ男性の縁はこれほど脆いのでしょう。
私は、男性のつながりの作られ方そのものに理由があると考えています。

多くの男性にとって、人間関係は「役割」とセットでできています。
会社の同僚、取引先、上司と部下。子どもの学校つながりも、たいていは妻が窓口です。
つまり男性の縁の多くは、「肩書き」や「家庭」という土台の上に立った縁なんですね。だから、退職・転職・離婚・配偶者との死別といった出来事で土台が外れると、その上に乗っていた縁も一斉に崩れてしまう。残るのは、雑談する相手も、弱音を吐ける相手もいない、しんとした静けさです。これが「沈黙する縁」の正体です。

「助けて」が言えないのは、性格ではなく台本のせい

ここで「だったら自分から連絡すればいい」と思われるかもしれません。でも、それができないように育てられてきたのが、いまの中年男性なんです。

「男は弱音を吐くな」「黙って背中で語れ」「人に頼るのは情けない」。
幼い頃から繰り返し刷り込まれてきたこの台本が、いざ縁が切れたときに、SOSの声を喉の奥で押し殺させてしまう。
実際、国の調査でも、男性は女性に比べて、悩みを誰かに相談する割合が低いことが分かっています。自ら命を絶つ方の年代でも、中高年の男性が大きな比重を占め続けています。
これは、その人の性格が弱いからではありません。「助けてと言ってはいけない」という古い台本を、まだ誰も書き換えていないからなんですね。

これは「自己責任」ではなく、社会構造の問題

ですから、声を大にしてお伝えしたいことがあります。
中年男性の孤独は、その人が努力を怠った結果ではありません。

戦後の日本は、男性に「会社にすべてを捧げ、稼ぎで家族を支える」という生き方を求めてきました。男性は求められたとおり、職場に縁のすべてを預けて働いてきたんです。
ところがいま、終身雇用は揺らぎ、家族のかたちも変わり、その「預け先」のほうが先に消えていく。
言ってみれば、社会が「ここに縁を全部預けなさい」と指示しておきながら、その金庫ごと無くしてしまったようなもの。これは個人の不注意ではなく、縁を一か所に集めさせた社会の設計の問題なんですよね。あなたの努力が足りなかったのではないんです。

「沈黙する縁」を、もう一度ほどくために

では、どうすればいいのでしょう。私は、二つの方向から手を入れる必要があると思っています。

ひとつは、一人ひとりの工夫です。
大切なのは、「役割」に乗っていない縁を、意識して持っておくこと。肩書きと関係のない趣味の仲間、昔の友人、地域の集まり。仕事や家庭が外れても残る縁を、現役のうちから一本でも二本でも育てておく。
そしてもうひとつ、私からのお願いは——どうか「助けて」を、弱さだと思わないでください。先に心を開いて頼れる人こそ、本当に余裕のある「持てる人」です。頼ることは、相手にあなたとの縁を贈ることでもあるんですから。

もうひとつは、社会の側の仕事です。
国はようやく「孤独・孤立対策」に乗り出し、相談窓口や居場所づくりを進め始めました。けれど、いちばん声を上げない中年男性にこそ、その手は届きにくい。
「相談しておいで」と待つだけでなく、職場や地域の側から、肩書きを外しても集える場所を用意していく。役割が終わってもなお人が人とつながれる仕組みを設計することは、立派な政治の仕事だと、私は思います。
沈黙してしまった縁は、もう一度、こちらから声をかけることでほどけます。その最初のひと声を、社会全体で当たり前にしていきたいですね。

出典:東京都監察医務院「東京都23区における孤独死(単身世帯死亡者)の統計」、内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」、厚生労働省「自殺対策白書」。

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