心理学

保有効果
とは

関口美奈子

保有効果とは、自分が持っているものを、実際の価値より高く評価してしまう心理です。同じものでも、手に入れた瞬間から「手放したくないもの」に変わるため、売る側と買う側で、思い浮かべる値打ちがずれていきます。

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
使っていない服が、なぜか捨てられない。もらったときは何とも思わなかった品が、いざ手放すとなると惜しくなる。誰かに譲るくらいなら、押し入れで眠らせておきたい。そんな感覚、心当たりがあるのではないでしょうか。
これは、「保有効果」という心理です。そして、これが服や道具の話で済んでいるうちは、まだ平和なほうです。私たちは、関係や、自分のやり方にまで、この効果を働かせてしまう。今日は、その話をします。

保有効果とは

保有効果とは、自分の持ち物になった途端に、そのものの値打ちが上がって見えるという心理です。まったく同じ品でも、他人の手にあるうちは冷静に値踏みできるのに、自分の手に渡ったあとは、手放すのが惜しくなる。持っているという事実だけで、評価が上乗せされてしまうのです。

この上乗せ分を、私は「所有ぶくれ」と呼んでいます。中身は変わっていないのに、自分のものだというだけで、ふくらんで見えている部分のことです。厄介なのは、ふくらんでいる本人には、それがふくらみだと分からないところ。正当な評価をしているつもりで、実は所有の分だけ足し算をしている。人の目利きは、自分の持ち物に対してだけ、しずかに甘くなるのです。

背景にあるのは、手に入れる喜びより、失う痛みのほうを大きく感じてしまう、人の心の癖です。同じ大きさの得と損なら、損のほうが重く響く。だから、手放す判断はいつも、手に入れる判断より難しくなります。

「今の関係」も、ふくらんで見えている

さて、ここからが本題です。所有ぶくれは、モノだけに起きるわけではありません。

長く続いている関係。もう心が動かなくなっている相手。それでも「他に行くところがない気がする」「ここまで一緒にいたのだから」と感じるとき、その関係は、たいていふくらんで見えています。質が高いから手放せないのではなく、自分のものだから手放せない。この二つは、まったく別のことなのに、心の中ではきれいに混ざってしまいます。

婚活の場でも、同じことが起きます。前に進めない方に理由をうかがうと、返ってくるのは相手への不満より、「今の状態を失うのが怖い」という手ざわりの言葉であることが少なくありません。今の生活の型、今の連絡の頻度、今の自分の距離感。どれも自分の持ち物だから、手放すのが惜しい。こうして、変える理由は山ほどあるのに、変えられない時間が積み上がっていきます。

手放せないのは、意志の弱さではありません

ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。動けないことを、性格の問題として責める必要はありません。所有ぶくれは、誰の心にも標準で備わっている働きだからです。

似た心理に、現状維持バイアスがあります。こちらは「今のまま」を選びたくなる傾向そのものを指す言葉で、保有効果は、その中でも持っているものの価値を高く見積もる部分を担当していると考えると分かりやすいと思います。手放したくないから、変えたくない。二つは、地続きの心理です。

そして、混同されやすいのがサンクコスト効果です。違いは、見ている時間にあります。保有効果は「今、持っている」という現在から手放しにくさが生まれ、サンクコスト効果は「これまで注いだ時間やお金」という過去から引き返しにくさが生まれます。今の所有が理由なのか、過去の蓄積が理由なのか。自分がどちらに縛られているのかが分かるだけでも、判断はずいぶん楽になります。

「所有ぶくれ」を点検する、三つの問い

では、ふくらみを見抜くにはどうするか。持っていない立場に、いったん自分を置き直してみることです。私がご相談の場でお伝えしているのは、次の三つです。

一つめ。「今これを持っていないとして、ゼロから選び直せるとしたら、あらためてこれを選ぶだろうか」。買い直すか、と言い換えてもかまいません。所有の上乗せ分が外れて、素の値打ちが見えてきます。

二つめ。「親しい人が同じ状況にいたら、私はどう言うだろうか」。人の持ち物には、私たちは驚くほど冷静な目を向けられます。その目を、自分に貸してあげるのです。

三つめ。「手放したら、何が空くだろうか」。失うものばかり数えている心に、空く場所のほうを見せてあげます。持てる人が身軽なのは、捨てるのが得意だからではありません。空いた場所に何が来るかを、先に思い描けるからです。

この三つを通しても、なお「やはり手元に置きたい」と思えたなら、それは所有ぶくれではなく、本当に価値があるということ。その確認ができるだけでも、十分に意味があります。

まとめ:手を開かないと、次は乗りません

保有効果は、自分が持っているものを、実際より高く評価してしまう心理でした。この所有ぶくれが、心の動かなくなった関係や、合わなくなったやり方を、実際以上に大切なものに見せています。

手放すのが惜しいのは、あなたの意志が弱いからではありません。人の心が、そういう作りになっているだけのことです。だからこそ、「今これを持っていないとしても、選ぶだろうか」と、静かに問い直す時間が要ります。手のひらを開かないかぎり、新しいものは乗せられません。心の仕組みを知ることは、自分を責めずに、次へ進む力になります。
こうした心理学を、人間関係や人生の選択に活かすお話は、講演でもお伝えしています。ご関心のある方は、よければお気軽にご相談ください。

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よくある質問

保有効果とは何ですか?
保有効果とは、自分が持っているものを、実際の価値より高く評価してしまう心理です。同じものでも、手に入れた瞬間から「手放したくないもの」に変わるため、売る側と買う側で、思い浮かべる値打ちがずれていきます。
保有効果とサンクコスト効果は、どう違いますか?
見ている時間が違います。保有効果は「今それを持っている」という現在の事実から、手放しにくさが生まれます。サンクコスト効果は「これまで注いだ時間やお金」という過去の投資から、引き返しにくさが生まれます。今の所有が理由なのか、過去の蓄積が理由なのか、という違いだとお考えください。
保有効果から抜け出すには、どうすればよいですか?
自分が持っていない立場に立って眺め直すことが助けになります。今この関係やこのやり方を持っていないとして、ゼロから選び直せるとしたら、あらためて選ぶだろうか。そう問い直すと、所有によって上乗せされていた分の評価が外れ、本来の値打ちが見えやすくなります。

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