社会・論考

なぜ熟年離婚は
増えたのか

関口美奈子

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。結婚相談所「エースブライダル」を運営しています。
先に結論をお伝えします。熟年離婚が増えた主な理由は、①長寿化で夫婦がともに過ごす時間が大きく延びたこと ②年金分割などの制度が整い、離婚後の暮らしの見通しが立ちやすくなったこと ③女性の就業と経済的自立 ④「我慢して添い遂げる」から「自分らしく生きる」への結婚観の変化 ⑤定年を境に、夫婦の暮らしが急に変わることです。
これを「年をとって愛が冷めたから」と語るのは、少し違うと私は思います。根っこにあるのは、私たちが添い遂げるには長く生きるようになったという、長寿がもたらした新しい条件。今日は、統計の数字とともに、この「寿命という試練」を読み解きます。

熟年離婚は本当に増えたのか:数字で見る

熟年離婚とは、一般に、同居期間が20年以上の夫婦の離婚を指します。厚生労働省の「人口動態統計」をもとにした集計では、離婚全体に占める同居期間20年以上の割合は、1950年には3.5%、1975年でも5.8%にすぎませんでした。それが近年は2割を超える水準まで高まっています(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」)。

ここで一つ、大切な見方があります。離婚の総数そのものは、2002年の約29万件をピークに減ってきています。それなのに、熟年離婚の割合は上がり続けている。つまり、若い夫婦の離婚が減る一方で、長く連れ添った夫婦の離婚が、全体の中で存在感を増しているのです。いまや離婚する夫婦の、おおよそ5組に1組が、20年以上ともに暮らした夫婦ということになります。

熟年離婚が増えた5つの理由

①長寿化で、夫婦の時間が延びた

厚生労働省の「簡易生命表」(2023年)では、平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳です。結婚してから死別するまでの時間は、かつてより大幅に長くなりました。夫婦でいる時間が長くなれば、そのぶん、関係を見つめ直す機会も増えます。

②年金分割など、制度が整った

2007年に、離婚時の年金分割制度が始まりました。それまでは、長く家庭を支えてきた側が、離婚後の老後資金に大きな不安を抱えやすい状況でした。制度ができたことで、離婚後の暮らしの見通しが、以前より立てやすくなったのです。

③女性の就業と、経済的な自立

働き続ける女性が増え、自分の収入や資産を持つ人も増えました。経済的な理由だけで結婚を続ける必要が、薄れてきています。

④結婚観の変化

「一度結婚したら、何があっても添い遂げるもの」という考え方から、「残りの人生を、自分らしく生きたい」という考え方へ。世間体よりも、自分の心の納得を大切にする人が増えました。

⑤定年を境に、暮らしが急に変わる

現役時代は、平日の多くを別々の場所で過ごしていた夫婦が、定年を境に、一日中同じ家で過ごすようになる。家事の分担、会話の量、お互いの居場所。それまで見えなかった問題が、一気に表に出てきます。

「寿命という試練」:添い遂げる時間が長くなった

結婚の誓いに、「死が二人を分かつまで」という言葉があります。とても美しい言葉ですが、この誓いが生まれた時代、人の寿命は、いまよりずっと短かったのです。

かつての結婚生活の多くは、仕事と家の営みに追われる年月と、ほぼ重なって終わっていました。ところが現代は、仕事の第一線を退き、家の中の大きな役割がひと段落したあとにも、夫婦二人だけの時間が、何十年も続きます。これは、人類がほとんど経験したことのない、まったく新しい局面です。

役割を分け合い、同じ目標に向かって走っていた二人が、走り終えたあとに向き合う。そのとき、二人のあいだに何が残っているのか。会話はあるか、一緒にいて心地よいか。熟年離婚は、愛が壊れたというより、役割が終わったあとの長い時間に、関係が耐えられなくなった姿だと私は考えています。男女の役割が変わった時代の話は、役割観の変化の記事でもお話ししています。

ですから、熟年離婚を選ぶ人を、わがままだと責めることはできません。医療が進み、私たちは長生きできるようになりました。それ自体は、まぎれもない恵みです。ただ、その恵みは、「一人の相手と半世紀近くをともにする」という、新しい宿題も一緒に連れてきた。熟年離婚の増加は、個人の愛情不足ではなく、長寿という条件に、結婚のかたちがまだ追いついていない、時代のひずみの表れなのです。

熟年離婚の前に現れやすい4つのサイン

長い年月をかけて、関係は少しずつすれ違っていきます。相談の場で、熟年期の夫婦のお話をうかがうと、離婚の前には、よく似たサインが重なっています。

① 会話が「用件」だけになる……「ご飯は?」「明日は何時?」。必要なこと以外を話さなくなると、相手の気持ちの変化に気づけなくなります。
② 感謝の言葉が消える……「やってもらって当たり前」になったとき、相手の中で、静かに不満が積もり始めます。
③ お金の流れが見えない……家計を片方が握り、もう片方は何も知らない。老後の話をしようとしても、話す土台がありません。
④ 定年後の過ごし方を、話したことがない……退職したあと、どこで誰と何をして過ごすのか。夫婦で一度も話していないまま、その日を迎えてしまう。

どれも、一つひとつは小さなことです。でも、小さなすれ違いが、二十年、三十年と積み重なったとき、取り返しのつかない距離になる。熟年離婚を考え始めた方の心の整理については、熟年離婚を考えたときに見つめたいことにまとめています。

これから結婚する人が、熟年離婚から学べること

熟年離婚の話は、これから結婚を考える人にとっても、他人事ではありません。むしろ、結婚相手を選ぶときの、いちばん長い目線を教えてくれます。

結婚相手を探すとき、多くの人は、いまの年収や見た目、暮らしやすさを見ます。それも大切です。でも、人生100年時代の結婚では、仕事の肩書きも若さも手放したあと、それでも一緒にいて心地よい相手かという問いが、最後に残ります。私はこれを、出会いの段階から見ておいてほしいと思っています。

具体的には、交際中にこんなことを確かめてみてください。

・二人で、用事のない時間を楽しく過ごせるか……目的のない散歩や、何でもないおしゃべりが苦にならないか。
・お金の話を、気軽にできるか……貯金や将来の暮らしについて、隠しごとなく話せるか。金銭感覚のすり合わせは、早いほど楽です。
・家事を「手伝う」ではなく「分け合う」と考えられるか……役割を固定せず、状況に応じて交代できるか。
・「ありがとう」を自然に言える人か……小さな感謝が言える人は、長い年月の中で、関係を何度でも温め直せます。

結婚前に話し合っておきたいテーマは、結婚前に話し合っておくべきことでも詳しくご紹介しています。

まとめ:長い後半生を、二人でデザインし直す

熟年離婚が増えた理由は、愛が冷めたからだけではありません。長寿化で夫婦の時間が延び、制度や働き方、結婚観が変わり、定年を境に暮らしが急変する。その中で、役割で結ばれていた関係が、長い後半生に耐えられなくなる。これこそが、熟年離婚の根にある「寿命という試練」です。

長く生きられること自体は、幸福です。だからこそ、役割で結ばれた関係を、人生の後半は「人として惹かれ合う関係」へと、ゆっくり架け替えていく必要があります。先に与え、相手の変化も面白がれる持てる人どうしの関係は、長い後半生でこそ輝きます。社会の側にも、夫婦関係を学べる場や、相談の窓口、どちらもが安心して生きられる仕組みが、もっと必要でしょう。長い人生をともにする相手は、走り終えたあとも並んで歩ける人を選ぶ。それが、長寿という試練を、長寿という贈り物に変えるいちばんの近道です。

出典:厚生労働省「人口動態統計」(離婚件数・同居期間別離婚件数)、国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(同居期間別離婚の割合、2023年)、厚生労働省「簡易生命表」(2023年)。年金分割制度は2007年4月施行。

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よくある質問

熟年離婚は、どのくらい増えているのですか?
離婚全体に占める同居期間20年以上の夫婦の割合は、1975年には5.8%でしたが、近年は2割を超える水準まで高まっています。離婚の総数が減る中で、熟年離婚の割合は上がり続けています。
熟年離婚が増えた理由は何ですか?
長寿化で夫婦がともに過ごす時間が延びたこと、2007年に始まった年金分割制度などで離婚後の見通しが立ちやすくなったこと、女性の経済的自立、結婚観の変化、定年を境に暮らしが急に変わることなどが重なっています。
定年後に夫婦関係が崩れやすいのはなぜですか?
仕事や家の中の役割で結ばれていた関係が、役割を終えたあとに向き合い方の作り直しを迫られるからです。一日中同じ家で過ごすようになり、会話の量や家事の分担、お互いの居場所の問題が一気に表に出てきます。
これから結婚する人が、熟年離婚を防ぐためにできることは?
交際中から、用事のない時間を一緒に楽しめるか、お金の話を気軽にできるか、家事を分け合えるか、感謝を言葉にできるかを確かめることです。肩書きや若さを手放したあとも、並んで歩ける相手かという長い目線で選ぶことが大切です。

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