独立の準備というと、資金を貯める、物件を探す、名前を決める、の順で考えがちである。だがこれらは、開業の手続きであって準備ではない。
準備とは、開業した翌日に「やったことがない」と立ちすくむことを減らしておくことだ。しかも、そのほとんどは雇われているうちに済ませられる。ただし、済ませられる職場と、済ませられない職場がある。この記事では、済ませておく七つのことと、それができる職場の条件を整理する。
1. 新規の入口を、一つ自分で作って数字を見る
予約サイトでも、Googleビジネスプロフィールでも、自分のSNSでも構わない。入口を一つ決めて、そこから月に何人の新規が入ったかを数える。重要なのは入口を作ることではなく、数字を自分で追うことである。
雇われていると、新規は「店に来た人」としてまとめて見える。どの入口から何人来たかを分けて数えた経験がある人は少ない。これがないと、独立後に広告費をどこに使うべきか判断できない。
2. 初回から次回予約までの会話を、型にする
初回のお客様が会計に立つ前に、仕上がりを一緒に確認し、次に整える時期を伝え、その場で次回の予約を入れる。この流れを、相手によらず同じ順番で言える状態にしておく。
再来率は、技術より会話の型で決まる部分が大きい。自分の型を持っている人は、独立後に初回価格で集めた新規をそのまま逃さない。
3. 口コミを、自分の手順の中に組み込む
口コミは、お願いして集まるものではない。仕上がり確認の手順の中に案内を組み込み、誰がやっても同じ手順になっていれば、件数と評価は安定する。
雇われているうちに、自分の指名客からの口コミが何件あるかを把握しておく。独立後は、店の評価がゼロから始まる。手順を持っている人と持っていない人で、最初の半年の評価件数に差が出る。
4. 原価と固定費の表を、自分で書く
いま働いている店の数字で構わない。家賃、人件費、広告費、材料費、光熱費を、分かる範囲で一枚の表に書く。分からない項目は、店長に聞いてみる。
聞いて教えてもらえる職場なら、そこは独立の準備ができる場所である。教えてもらえない職場なら、それ自体が一つの判断材料になる。
5. 一日を、一人で回す
施術だけでなく、受付、電話、会計、予約の調整、清掃、閉店作業までを一人でやった日を、意図的に作る。週末の忙しい日ではなく、平日の空いている日でいい。
独立直後は、この全部を自分でやる。施術は上手くても、予約の調整で一日が崩れる経験は、雇われているうちにしておいたほうが安い。
6. 人を一人、育てる
後輩を一人、デビューまで教えた経験があるかどうか。独立後に店を大きくするなら、必ず人を雇い、教えることになる。教えたことがない人が、独立後に初めて教えるのは負荷が高い。
これは研修の仕組みがある職場でしかできない。感覚で教える店では、自分も感覚でしか教えられなくなる。
7. 自分の名前で予約が入る状態を作る
店の名前ではなく、自分の名前で指名が入る状態。これは独立後に最初の売上を作る土台になる。
ただし、独立時に指名客を連れて行くことを前提にすると、いまの職場との関係が壊れる。目的は「連れて行く」ことではなく、「自分の名前で人が来る」という経験を一度しておくことである。
七つを、雇われたまま済ませられる職場の条件
| 項目 | 済ませられる職場の条件 |
|---|---|
| 1. 新規の入口と数字 | 入口別の新規数をスタッフに開示している |
| 2. 次回予約の会話 | 会計前に次回予約を取る手順が型として決まっている |
| 3. 口コミの手順 | 仕上がり確認の中に口コミの案内が組み込まれている |
| 4. 原価と固定費 | 店長候補に損益の構造を見せている |
| 5. 一人で回す | 完全予約制で、一人運営の日が設計できる |
| 6. 人を育てる | 研修が手順として決まっていて、教える側に回れる |
| 7. 自分の名前で予約 | 指名制度があり、指名が本人に還元される |
七つすべてを満たす職場は多くない。だが、満たす職場で一店舗を回した人は、独立の初日に立ちすくまない。
Winsomeの場合
メンズ眉毛サロンWinsomeは、上の七つを満たすように店を設計している。新規の入口別の数字と原価の構造は、店内でスタッフに開示している。会計前の次回予約と口コミの案内は手順として決まっている。完全予約制で、研修は手順化され、指名は1件500円を100%本人に還元する。
新店8エリアの立ち上げを任せる枠があるので、七つを一度に経験する場所として使える。正職員の月給は260,000円から525,000円、固定残業代なし、年間休日約120日。独立前に準備を済ませる場所として、相談だけでも受け付けている。
よくある質問
七つ全部を終えてからでないと独立できませんか?
そういう意味ではありません。終えていない項目が多いほど、開業直後に「やったことがない」ことが増え、黒字化が遅れるというだけです。どれを済ませていて、どれが空白かを把握してから開業するのと、把握せずに開業するのとでは、最初の半年が変わります。
いまの職場が項目4を教えてくれません。どうすればいいですか?
聞いて教えてもらえない職場は多く、それ自体は珍しくありません。その場合、損益の構造を開示している職場に移って一店舗を回すか、公開されている他店の数字を参考に自分で表を書くかの二択になります。Winsomeは集客の数字と原価の構造を公開しています。
指名客を連れて独立するのは、やめたほうがいいですか?
連れて行くことを前提にした準備はおすすめしません。職場との関係が壊れ、独立後の評判にも影響します。項目7の目的は、自分の名前で人が来るという経験を一度しておくことで、連れて行くことではありません。
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