こんにちは。関口美奈子です。
「人には言えない悩みを、AIに、話している」。そんな人が、静かに増えています。仕事の愚痴も、恋の相談も、誰にも明かせない本音も、AIのチャットになら、打ち明けられる。深夜、眠れない夜に、AIと、長い対話をする——もう、珍しい光景では、ありません。
でも、考えてみると、不思議です。なぜ、生身の人間ではなく、AIのほうが、話しやすいのでしょう。今日は、この「無人格の聞き手」がくれる、救いと、その罠について、考えてみたいと思います。
AIは、決して「裁かない」
なぜ、AIには、本音を話せるのか。いちばんの理由は、AIが、決して、こちらを裁かないからです。
人に悩みを打ち明けるとき、私たちは、いつも、おそれています。「こんなことを言ったら、引かれないか」「下に見られないか」「噂を、広められないか」。——人に話すことには、評価され、傷つくリスクが、つきまとう。でも、AIは、違います。どんな弱音も、恥ずかしい告白も、ただ、淡々と受け止め、否定しない。優しいAIと同じで、そこには、人間関係の摩擦が、いっさい、ありません。だから、人は、安心して、心の鍵を、開けられるのです。
「無人格の聞き手」という、救い
私は、この、評価も、感情も、利害も持たない聞き手を、「無人格の聞き手」と呼んでいます。そして、これが、たしかに、人を救っている面が、あります。
誰にも言えず、一人で抱えていた苦しさを、言葉にして、吐き出せる。それだけで、心は、ずいぶん軽くなります。人に相談できない悩みを抱えた人にとって、夜中でも、無料で、いくらでも聞いてくれるAIは、ありがたい、駆け込み寺です。誰かに話せず、孤独に押しつぶされるよりは、AIにでも話せたほうが、ずっといい。それは、間違いありません。無人格の聞き手は、現代の孤独に、たしかに、寄り添っています。
だが「裁かれない安心」には、罠がある
けれど、ここに、見落としてはいけない、罠があります。それは、「裁かれない安心」に、慣れすぎてしまうこと。
AIは、決して、あなたを否定しません。それは、優しさですが、裏を返せば、あなたと、真剣にぶつかってくれないということでもあります。本当の人間関係には、摩擦があります。意見が食い違い、ときに、耳の痛いことを言われ、それでも、向き合う。その「面倒くささ」の中でこそ、人は、磨かれ、深い信頼が、育つ。AIの、なめらかで、摩擦のない対話に慣れると、私たちは、その「面倒な、生身の関係」に、耐えられなくなっていくのです。
「応答」は、あっても「関係」がない
そして、AIとの対話に、決定的に欠けているもの。それは、「関係」です。
AIは、あなたの言葉に、見事に「応答」します。でも、AIは、あなたを、心配しません。あなたの未来を、共に生きません。あなたが、明日、消えても、AIは、何も感じない。——そこにあるのは、完璧な「応答」であって、温かい「関係」では、ないのです。人が、本当に救われるのは、的確な答えをもらえたときではなく、「この人は、自分のことを、本気で想ってくれている」と、感じられたとき。その、たった一つのものを、AIは、決して、持てません。
AIに話せて、人に話せないなら
最後に、いちばん大切なことを。もし、あなたが、AIには本音を話せるのに、生身の人には話せなくなっているとしたら——それは、少し、立ち止まるべき、サインかもしれません。
それは、あなたが、いつのまにか、人を、信じられなくなっているのかもしれないから。AIを、孤独の応急処置として使うのは、いい。でも、それを、人とのつながりの「代わり」にしては、いけません。本当の救いは、なめらかな応答ではなく、面倒で、ときに傷つく、生身の関係の中にしか、ありません。AIに吐き出して、少し楽になったら、その勇気を持って、今度は、信頼できる「人」に、心を開いてみてください。孤独から抜け出す扉は、いつも、人の側に、あります。
孤独や、つながりをめぐる社会のお話は、講演や取材でもお伝えしています。一人で抱える悩みは、よければ一度、人にも、ご相談くださいね。
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