こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
「今日の服、素敵ですね」と言われて、「いえいえ、安物ですよ」と返していませんか。「仕事が丁寧ですね」に、「全然そんなことないです」と返していませんか。
お伝えします。その謙遜、美徳ではありません。相手の贈り物を、突き返しています。
褒め言葉は、相手があなたのために選んで差し出した、小さなプレゼントです。「そんなことない」と打ち消すことは、包みを開けもせずに返品するのと同じ。謙虚に見えて、実は相手の好意と目利きを否定してしまっている。
私はこれを「謙遜の値引き」と呼んでいます。褒め言葉を値引きする癖のある人は、知らないうちに、褒めにくい人・距離の縮まらない人になっていきます。
今日は、のべ3万人以上と面談してきた私の視点で、好かれる人がやっている「受け取り方」を、シーン別の返し方まで含めてお話しします。
なぜ「そんなことないです」と言ってしまうのか
まず、責める話ではないことを先に言っておきます。褒められて即座に打ち消してしまうのは、性格が悪いからでも、卑屈だからでもありません。理由はだいたい3つあります。
ひとつは、文化の癖。日本では謙遜が礼儀として教えられてきたので、「ありがとうございます」と受け取ることが、どこか図々しく感じられる。ふたつめは、照れ。褒められた瞬間の居心地の悪さから逃れるために、反射的に打ち消しの言葉が出る。みっつめが、いちばん根深いもので、自己評価とのズレです。自分で自分を低く見積もっていると、褒め言葉が「事実と違う情報」として処理され、訂正したくなるのです。
つまり「そんなことないです」は、謙虚さの表明というより、照れと自己評価のズレから出る防御反応に近い。ここを自覚するだけで、返し方は変えられます。反射で出る言葉は直せなくても、反射のあとに続ける言葉は選べるからです。問題は、この防御反応が、相手の側にどう届いているか。次の章で、その内側を見ていきます。
「謙遜の値引き」が起こしていること
褒め言葉を打ち消すとき、あなたの中では「謙遜した」で終わっています。でも相手の中では、別のことが起きています。
まず、相手の目利きを否定しています。「素敵ですね」と言った人は、自分の感性でそれを見つけ、言葉にする小さな勇気を払っています。「そんなことないです」は、その感性への「あなたの見立ては間違いです」という返答になってしまう。次に、次の褒め言葉が出にくくなります。差し出したものを毎回突き返されたら、人はもう差し出しません。こうして「褒めにくい人」が出来上がり、肯定的な言葉が届かない関係だけが残ります。
そしてもうひとつ、見落とされがちなことがあります。人間関係は返報性の原理で動いています。好意には好意が返り、否定には否定が返る。褒め言葉を受け取ることは、相手の好意の循環に「乗る」ことであり、打ち消すことは、その循環を止めることです。謙遜の値引きは、自分の評価だけでなく、二人の間の好意の流れそのものを値引きしているのです。恋愛の場面なら、なおさらです。せっかく縮まりかけた距離が、「そんなことないです」の一言で、すっと元に戻る。私は面談で、この場面を何度も見てきました。
受け取り上手の基本形:「ありがとう」+ひとこと
では、どう返せばいいのか。基本形はとてもシンプルです。「ありがとうございます」で受け取り、そこにひとことを足す。これだけです。
足すひとことは、3種類覚えておけば足ります。ひとつ、気持ちを足す。「ありがとうございます、うれしいです」。素直な喜びは、褒めた側への最高の返礼です。ふたつ、事実を足す。「ありがとうございます、実は今日のために選んだんです」。小さな種明かしは会話を先に進めます。みっつ、相手を足す。「ありがとうございます、〇〇さんに言われるとうれしいです」。誰に褒められたかを言葉にすると、相手の目利きへの敬意になります。
注意点はひとつだけ。反射的な「返し褒め」はしないこと。「いえいえ、〇〇さんのほうこそ」と即座に返すのは、一見感じがよさそうで、実は受け取りの拒否です。お互いの褒め言葉が空中で相殺されて、どちらにも届かない。褒め返したいなら、いったん受け取ってから、別の場面で、自分の言葉で褒める。褒め言葉の選び方は褒め上手になる方法で詳しくお話ししています。
最初は、「ありがとうございます」と口にした瞬間に、むずがゆさを感じるかもしれません。それで正常です。長年の癖を変えるときの、ただの筋肉痛のようなもの。回数を重ねるほど、受け取ることは自然になり、あなたの表情も柔らかくなっていきます。受け取り方は、性格ではなく技術です。技術なら、練習で変えられます。
シーン別:職場・恋愛・お世辞っぽいとき
基本形を、場面ごとに少しだけ調整しましょう。
職場で。成果を褒められたら、「ありがとうございます」に、支えてくれた人をひとり足すのが品のある返し方です。「ありがとうございます、〇〇さんのフォローのおかげです」。これは謙遜ではありません。受け取ったうえで、功を分けているからです。突き返す謙遜と、受け取って分かち合う謙虚は、まったく別物です。
恋愛・デートで。ここでは受け取り方が、そのまま距離感を決めます。褒め言葉を打ち消すのは「あなたの好意を受け取りません」というサインとして届いてしまう。「ありがとう、うれしい」と素直に受け取る人は、それだけで「一緒にいて気持ちのいい人」になります。デートで褒められたときこそ、値引きせずに、笑顔で受け取ってください。
お世辞かもしれないとき。本心かどうかを見極めようとする必要はありません。判定せず、「ありがとうございます」と軽く受け取って流せばいい。お世辞だった場合でも、あなたは何も失いません。むしろ、お世辞を真顔で打ち消すほうが、場の空気を重くします。受け取り上手は、真偽の審査員をやめた人でもあるのです。
まとめ:受け取る器が、与える器を育てる
褒められたときの返し方の答えは、「ありがとうございます」+ひとこと。気持ちを足す、事実を足す、相手を足す。反射的な返し褒めはせず、職場では功を分け、恋愛では素直に受け取り、お世辞は審査せずに流す。これだけで、あなたの周りの空気は変わりはじめます。
最後に、少し深い話をさせてください。褒め言葉を受け取れないことと、自分を低く見積もる癖は、地続きです。自己肯定感の話でもお伝えしたように、自分への評価が低いと、外から届く肯定的な言葉を「受信拒否」してしまう。だから、褒め言葉を意識して受け取ることは、単なるマナーの話ではなく、自分への評価を、他人の目を借りて少しずつ修正していく練習でもあるのです。
持てる人は、先に与える人だと私はよく言います。でも実は、その手前があります。気持ちよく受け取れる人が、気持ちよく与えられる人になる。好意の循環は、受け取るところから始まります。今日、誰かに褒められたら、値引きせずに、まるごと受け取ってみてください。その「ありがとう」の一言から、関係は静かに変わりはじめます。
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