心理学

ローボール・
テクニック

関口美奈子

こんにちは。関口美奈子です。
「今だけ無料です」と言われて申し込んだのに、あとから「初回だけは事務手数料が」と言われる。それでも、なぜか断らずに続けてしまう——。こんな経験、ありませんか。これは「ローボール・テクニック」という、少し油断ならない心理の働きです。今日は、その仕組みと、恋愛や仕事での向き合い方、そして悪用されないための見抜き方まで、お話しします。

ローボール・テクニックとは

ローボール・テクニックとは、最初に好条件を見せて「やる」と承諾させ、あとから条件を加えたり、外したりしても、相手が断りにくくなる説得の技法です。直訳すると「低いボール」。

野球で、わざと取りやすい低いボールを投げて、まず相手に「捕る体勢」を取らせる。いったん捕る気になった人は、ボールが多少ずれても、手を伸ばしてしまう——。そんなイメージから、こう呼ばれます。魅力的な条件は、あくまで『最初に決断させるための、きっかけ』にすぎないわけです。

なぜ条件が悪くなっても断れないのか——「一貫性の原理」

このテクニックが効くのは、人の心に「一貫性の原理」が働くからです。人は、一度自分で決めたことを、貫きたい。コロコロ変える自分を、見たくない。

いったん「やる」と心を決めると、その決断を『自分のもの』として抱え込みます。だから、あとから条件が少し悪くなっても、「もう決めたことだし」「今さらやめるのも」と、つい継続を選んでしまう。最初に出された好条件は、すでに姿を消しているのに、です。これは、小さなイエスを積み上げるフット・イン・ザ・ドアとも、根を同じくする心理です。

恋愛・仕事で、知らずに使っていること

じつは私たちも、悪気なく、これをやっています。デートで「近くのカフェだけ」と誘っておいて、会えたら「せっかくだからご飯も」。仕事で「五分だけ相談が」と言って、始まれば三十分。——相手は、いったん「いいよ」と応じた手前、引っ込みがつかなくなる。

ただ、ここに落とし穴があります。条件のすり替えに、相手が気づいたとき。「最初の話と違う」と感じた瞬間、人はその場では断れなくても、心の中で静かに減点するのです。一度きりの取引なら通用しても、関係を続けたい相手には、まず使ってはいけません。

使うとき、使われたとき——たったひとつの基準

もしあなたが誰かを動かしたいなら、答えはシンプルです。条件を、後出しにしないこと。最初に全部を見せたうえで「それでも」と言ってもらえる関係こそ、長く続きます。誠実さは、いちばん強い説得力です。これは返報性の原理と同じで、こちらが正直であるほど、相手も正直で返してくれます。

逆に、使われた側になったときは。条件が後から変わった、その瞬間に、いったん最初へ戻ること。「この条件を、今はじめて提示されたとして、私はそれでも選ぶだろうか」。そう問い直せば、一貫性のしばりから、すっと抜けられます。決断は、過去の自分にではなく、いま目の前にある条件に対して、下すものなのですから。

おわりに:心理を知ることは、自分を守ること

ローボール・テクニックを知る意味は、誰かを操るためではありません。自分が、知らないうちに流されないためです。「もう決めたから」という気持ちは、ときに、自分で自分を縛ります。その縄が、本当に自分の意思なのか、誰かに持たされたものなのか。立ち止まって見分けられる人は、強い。

心の仕組みを知ると、人づきあいは、ずいぶん見通しがよくなります。こうした人間関係や心理の話は、企業研修や講演でも、わかりやすくお伝えしています。ご関心があれば、お気軽にご相談ください。

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よくある質問

ローボール・テクニックとは何ですか?
最初に好条件を見せて承諾させ、あとから条件を加えたり外したりしても、相手が断りにくくなる説得の技法です。低いボール(取りやすい好条件)を先に投げることが名前の由来で、いったん『やる』と決めた気持ちを利用します。
なぜ条件が悪くなっても断れなくなるのですか?
人には決めたことを貫きたいという『一貫性の原理』が働くためです。一度『やる』と心を決めると、その決断を自分のものとして抱え込み、条件が多少悪くなっても『もう決めたことだから』と継続を選びやすくなります。
ローボール・テクニックを使われたら、どう身を守ればいいですか?
条件が後から変わった時点で、いったん最初に戻って考え直すことです。『この条件を、今はじめて提示されたとして、それでも選ぶか』と問い直すと、一貫性のしばりから抜けられます。決断は、最新の条件に対して下すものです。

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