認知的不協和とは、自分の行動と考え(信念)が食い違うときに感じる、心の不快感のことです。心理学者フェスティンガーが提唱しました。
こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
恋愛の場面で言えば、認知的不協和は「自分がしてきた行動に合わせて、気持ちのほうが後から書き換わる」心理です。手間をかけて尽くした相手ほど、好きになっていく。つらい恋なのに、「ここまでしてきたのだから」と離れられない。どちらも、同じ心の仕組みから生まれています。
この仕組みを知ると、恋を前向きに育てることも、合わない関係から抜け出すこともできるようになります。今日は、有名な実験から、恋愛での現れ方、上手な活かし方と注意点まで、お話しします。
認知的不協和とは:行動と考えの食い違いを「考え」で埋める
認知的不協和とは、自分の行動と、考え(信念)が食い違うときに感じる、心の不快感のことです。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが、1957年に理論としてまとめました。
たとえば、「健康が大事」と思っているのに、夜更かしや食べすぎをしてしまう。このとき、考えと行動がぶつかって、心がもやもやします。人はこの不快感をとても嫌うので、なんとか解消しようとします。そして、行動を変えにくいとき、人は考えのほうを変えてつじつまを合わせるのです。「たまには息抜きも必要」「これくらいなら大丈夫」と。
高い買い物のあとに「やっぱり良い買い物だった」と自分に言い聞かせるのも、同じ働きです。すでにしてしまった行動を否定せずに済むよう、考えを後から書き換える。自分を守るための、とても自然な心の動きなのです。
有名な実験:報酬が少ないほど「楽しかった」と思い込んだ
この理論を有名にしたのが、フェスティンガーとカールスミスが1959年に発表した実験です。参加者は、糸巻きを並べ替えるような、とても退屈な作業を1時間します。そのあとで、次の参加者に「この作業は楽しかった」と伝えてほしいと頼まれます。報酬は、あるグループには1ドル、別のグループには20ドルでした。
あとで「作業は本当はどうだったか」を尋ねると、1ドルしかもらえなかったグループのほうが、作業を楽しかったと評価したのです。20ドルもらった人は「お金のために言っただけ」と割り切れます。でも1ドルの人は、「たった1ドルで嘘をついた自分」と向き合わなければならない。その不快感を消すために、「いや、本当に少しは楽しかったのだ」と、考えのほうを変えたと解釈されています。
もう一つ、恋愛に近い研究があります。アロンソンとミルズが1959年に行った実験では、あるグループに入るために恥ずかしい課題を乗り越えた人ほど、そのグループの退屈な話し合いを「面白かった」と評価しました。苦労して手に入れたものほど、価値があると思いたくなるのです。
恋愛の場面で何が起きるか
①尽くした相手ほど、好きになる
相手のために時間を使い、手間をかけ、何かをしてあげる。すると心は、「こんなにしてあげるのだから、私はこの人が大切なはずだ」と、気持ちを行動に合わせていきます。相手に小さなお願いをして手伝ってもらうと、手伝った側が相手を好きになりやすいというベンジャミン・フランクリン効果も、この仕組みで説明されることがあります。
②つらい恋から、離れられない
反対に、この仕組みが苦しい方向に働くこともあります。連絡はいつも自分から、約束はよく破られる。それでも、「ここまで尽くしたのだから、この恋は正しいはず」「彼にも事情があるから」と、考えのほうを書き換えて、関係を続けてしまう。費やした時間や気持ちが大きいほど、手放すことは「これまでの自分を否定すること」に感じられるのです。この心の動きは、サンクコスト効果と恋愛の関係として整理できます。
③断られた相手を「たいしたことない」と思う
お見合いや告白で断られたあと、「よく考えたら、そんなに合っていなかった」と感じることはありませんか。手に入らなかったぶどうを「どうせ酸っぱい」と言うキツネの寓話と同じで、これも不協和を和らげる心の働きです。傷を浅くする役目もありますが、本当の振り返りを妨げることもあります。
④選んだ相手のよさが、選んだあとに見えてくる
交際相手や婚約者を決めたあとに、その人のいいところが前より見えるようになる。これも、決断と気持ちをそろえようとする働きです。悪いことばかりではありません。決めたことに誠実でいようとする心が、関係を育てる力にもなるのです。
恋愛での上手な活かし方:先に小さく動く
この仕組みは、前向きに使うこともできます。鍵は、「気持ちが整ってから動く」のではなく、「先に小さく動くと、気持ちが後からついてくる」という順番です。
・好きになれるか分からない相手とも、もう一度だけ会ってみる……「会うと決めて会った」という行動が、相手のよさを探す目を開きます。
・相手のために、小さな手間をかける……お店を調べておく、相手の好きそうな話題を準備する。手をかけるほど、関係は自分ごとになっていきます。
・婚活を「やる」と決めて、一つ行動する……プロフィールを一行書く、相談所の話を聞きに行く。動いた事実が、「私は本気なんだ」という気持ちを後から育てます。
相談所でも、お見合いのあと「悪い人ではないけれど、ときめきはなかった」と迷う方に、もう一度だけ会ってみることをおすすめする場面がよくあります。二回目、三回目と会ううちに、「この人の話し方、落ち着くな」と、最初は見えなかったよさに気づいていく方は少なくありません。会うと決めて会うことが、相手をきちんと見ようとする姿勢そのものを育てるのです。もちろん、会うたびに違和感が増すなら、それも大切な答えです。
以前「行動できないのはなぜ?」でもお話ししたように、行動は、やる気や気持ちを後から連れてきます。小さな約束を守り続けることが、自分を信じる材料になる。この点は一貫性の原理とも深く関わっています。
注意点:「納得」と「つじつま合わせ」を見分ける
認知的不協和は、自分を守る働きであるがゆえに、変わるべきときの妨げにもなります。その関係を続けたい気持ちが、本当の納得なのか、それとも、これまでの行動を否定したくないためのつじつま合わせなのか。見分けるために、次の三つを自分に問いかけてみてください。
① 「いまの状態を、今日はじめて知ったとしても、この関係を選ぶか」
② 「信頼している友人に、同じ話をされたら、私は何と言うか」
③ 「この人を正当化する理由を、相手の言葉ではなく、相手の行動で三つ挙げられるか」
この三つに迷わず答えられるなら、それは本当の納得です。答えに詰まるなら、一度立ち止まって考えるサインかもしれません。正当化に使っている言葉が「でも」「だって」ばかりになっていないか。その言葉の数が、心の不協和の大きさを教えてくれます。
まとめ:行動を変えれば、心も動く
認知的不協和とは、行動と考えが食い違うときの不快感を、考えのほうを変えて解消しようとする心理です。フェスティンガーらの実験では、報酬が少ない人ほど退屈な作業を「楽しかった」と思い込みました。恋愛では、尽くすほど好きになる一方で、つらい恋から離れられない理由にもなります。
この心理が教えてくれるいちばん前向きな知恵は、心を変えたければ、まず行動を変えればいいということです。気持ちが追いつくのを待たなくても、先に小さく動けば、心は後からその行動に合わせて育っていきます。先に与え、先に踏み出す持てる人のふるまいが、やがて自分の気持ちや自信まで育てていくのは、この仕組みのおかげでもあるのです。ただし、その行動が自分を苦しめているときは、立ち止まって決め直す勇気も忘れずに。行動は心を連れてくる。だからこそ、どの行動を選ぶかは、自分で決めていい。こうした恋愛心理のヒントは、LINEでも無料でお届けしています。よければ受け取ってみてください。
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