こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
「出身、同じ県なんですか」。この一言で、初対面の空気がふっとゆるむ瞬間を、誰でも経験したことがあると思います。
心理学でいう類似性の法則。人は、出身地・趣味・価値観・笑いのツボ——自分と似たものを持つ相手に、好意を抱きやすいという性質です。
ここまでは、よく知られた話。でも、婚活の現場でこの法則は、しばしば誤って使われています。「共通点の多い人を探す」という使い方です。プロフィールの趣味欄を見比べて、一致が少ないから会わない。会っても共通点が見つからなかったから次はない。
お伝えします。共通点は、見つけるものではなく、会話の中で育てるものです。今日は、のべ3万人以上と面談してきた私の視点で、似ていることが好意に変わる仕組みと、どんな相手とも共通点を育てられる会話の技術をお話しします。
類似性の法則とは何か
類似性の法則とは、自分と似た特徴を持つ相手に好意を抱きやすいという心理傾向のことです。態度や価値観の類似が対人魅力を高めることは、社会心理学の古くからの研究テーマで、出身地、趣味、金銭感覚、ユーモアの感覚まで、幅広い「似ている」が好意につながることが知られています。
なぜ、似ていると好きになるのか。理由は大きく2つあります。ひとつは、自分の答え合わせになるから。自分と同じものを好きな人、同じ考え方をする人の存在は、「あなたの感覚は正しい」という承認として働きます。人は、自分を肯定してくれる存在を心地よく感じる——その最も自然な形が「似ている人」なのです。もうひとつは、予測がつくから。似た相手の反応は読みやすく、一緒にいて疲れない。安心感の正体は、この予測可能性です。恋愛に限らず、友人関係や職場のチームでも、私たちが最初に打ち解けるのはたいてい「どこか似ている人」であるのは、この二つの力が働いているからです。
初対面の会話で出身地や好きな食べ物の話をするのは、世界共通の知恵です。あれは時間つぶしではなく、お互いの「似ている」を探し合う、関係の入り口の儀式なのです。
「共通点の多い人を探す」という間違い
ところが、この法則を婚活に当てはめるとき、多くの人が逆向きに使ってしまいます。「類似性が大事。だから、共通点の多い人を選ぼう」——一見正しそうで、これが出会いを痩せさせます。
プロフィールの趣味欄で一致を数える。初対面で共通点が見つからないと「合わなかった」と結論する。この基準で選別すると、候補は驚くほど少なくなります。考えてみれば当然で、育った場所も歩んできた人生も違う二人に、最初から一致する項目が並んでいるほうが珍しいのです。プロフィール欄の一致で相手を絞り込むほど出会いの母数が痩せていく構図は、マッチングアプリ疲れの正体でお話しした選別の疲労とも地続きです。
それに、そもそも長く続く夫婦が「最初から似ていた二人」かというと、私の実感は違います。面談で出会う仲のいいご夫婦の多くは、こう言います。「だんだん似てきたんですよ」。そう——類似は、関係の出発点ではなく、関係の成果でもあるのです。だとすれば、婚活で問うべきは「今、共通点がいくつあるか」ではありません。「この人と、共通点を育てていけそうか」です。
共通点は「育てる」もの:会話の技術
では、共通点をどう育てるか。私はこれを「共通点の編集力」と呼んでいます。ポイントは3つです。
ひとつ、抽象度を一段上げる。「趣味がキャンプとカフェ巡り」では一致しません。でも一段上げれば、「休日に日常から離れたい人同士」かもしれない。サッカー観戦と推し活は、「何かに熱中する時間が好き」という同じ性質の別の形です。表面の項目ではなく、その下にある性質で見ると、共通点は急に増えます。ふたつ、「違い」を質問に変える。知らない趣味が出てきたら、「合わない」ではなく「その面白さ、教えてください」。相手の世界に興味を持った瞬間、そこは分断線ではなく、二人の新しい共有地の候補になります。みっつ、小さな「一緒」を実際に作る。同じ店の同じメニューを頼んでみる、相手のおすすめを試して感想を送る。共有した体験は、その瞬間から二人だけの共通点です。単純接触効果が回数で好意を育てるように、類似性は共有体験の数で育ちます。
この3つに共通するのは、共通点を「発見」ではなく「共同作業」として扱っていることです。探せば有限、育てれば無限。ここが、選別に疲れる人と、誰とでも打ち解ける人の分かれ目です。
面談でも、この編集力のある人は強い。プロフィール上は接点のなさそうなお相手と、初回のお見合いで「意外と合いますね」と笑って帰ってくる。彼らは運よく似た相手を引き当てたのではなく、テーブルの上で共通点を作ってきたのです。同じ相手でも、向かいに座る人の編集力次第で、「合わない人」にも「合う人」にもなる——出会いとは、そのくらい会話に左右されるものです。
注意点:合わせすぎは、逆効果になる
ひとつ、大事な注意があります。類似性が好意を生むと知ると、今度は何でも相手に合わせる人が現れます。好きな音楽を聞かれて相手の答えに寄せる。意見を求められて相手の顔色から答えを選ぶ。——これは、うまくいきません。
理由は2つです。まず、合わせてばかりの類似は、遅かれ早かれ露見します。取り繕った共通点は会話を深掘りされた瞬間に底が見え、そのとき失うのは共通点ではなく信頼です。次に、全部似ている(ように振る舞う)人は、実は魅力的ではないのです。自分の輪郭がない人との会話は、壁打ちのようなもの。類似性が効くのは、ちゃんと「違う二人」が、重なる部分を見つけたときだけです。
だから、違いは隠さなくていい。「そこは私、真逆かも。だから面白い」と言える人のほうが、結局は好かれます。似ている安心と、違う面白さ。関係はこの二つを往復しながら深まっていくもので、どちらか片方だけでは進みません。
まとめ:「似ている」は、二人で作る作品
類似性の法則を整理します。人は、自分と似た相手に好意を抱く。それは、似ている人が自分の答え合わせであり、予測のつく安心だからでした。ただし婚活での正しい使い方は、共通点の多い人を探すことではありません。抽象度を上げ、違いを質問に変え、小さな共有体験を積む——共通点を育てる編集力のほうです。そして、合わせすぎは信頼ごと壊すこと、も。
のべ3万人以上と面談してきて思うのは、ご縁がつながる人は「気が合う人と出会えた人」ではなく、「目の前の人と気を合わせにいける人」だということです。初対面の相手との間に、まだ共通点はほとんどありません。でもそれは「合わない」ではなく「まだ育てていない」というだけのこと。
「似ている」は、プロフィールに最初から書かれているものではなく、二人の会話が少しずつ作っていく作品です。次に誰かと向き合うとき、共通点を数えるのをやめて、ひとつ育ててみてください。関係の育ち方が、変わりはじめます。
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