こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
今日はニュースから入ります。
エイブル&パートナーズが、20〜49歳の未婚でひとり暮らしの男女1,214名に、結婚への意欲をたずねた調査を公表しました。
女性でいちばん多かった答えは「良い人がいれば結婚したい(40.8%)」。
男性は「絶対に結婚したい」が35.2%で、女性の約3倍にのぼります。
そして結婚後に譲れない条件として、男女とも約半数が挙げたのが「ひとりで過ごす時間」でした。
結婚はしたい。けれど、ひとりの時間は手放したくない。
一見すると、矛盾した願いに見えるかもしれません。
でも私は、現場で別のことに気づいています。
のべ3万人以上の方と面談してきて、ひとり時間を大切にする人ほど、結婚を長い目で真剣に考えているのです。
ひとり時間を条件にするのは、結婚から逃げるためではありません。結婚を続けるための設計です。
数字が映すのは、ゆらぎではなく輪郭
この調査は、11月22日の「いい夫婦の日」に合わせて行われたものです。対象は、いま実際にひとりで暮らしている未婚の人たち。自分の部屋の鍵を自分で持ち、食事の時間も眠る時間も自分で決めている人たちの声です。
数字を並べてみると、男女で態度の描き方がずいぶん違います。女性は「良い人がいれば結婚したい」が40.8%で最も多く、「絶対に結婚したい」は12.7%。男性は「絶対に結婚したい」が35.2%いる一方で、「良い人がいても結婚はマストではない」も46.8%ありました。
昨年との比較では、結婚を支持する女性が13.4%増え、男性の「絶対に結婚したい」派は21.4%増えています。結婚から人がどんどん離れていく、というよく聞く物語とは、少し違う景色がここにあります。
私はこの数字を、結婚への気持ちが弱まった変化ではなく、輪郭がはっきりしてきた変化として読んでいます。女性の「良い人がいれば」は消極的な態度ではなく、相手との関係の質で決めたいという意思表示です。男性の答えが二つに分かれているのも、結婚を「するもの」から「自分で選ぶもの」として考える人が増えた表れでしょう。どちらの答えにも、自分の人生の舵は自分で握りたいという共通の芯が通っています。
自己決定理論で読む、「自律」と「つながり」は敵ではない
この芯を説明してくれるのが、心理学の自己決定理論です。人が生き生きと暮らすには、三つの基本的な欲求が満たされる必要があるとされます。自分で選んでいると感じられる「自律性」、誰かとつながっていると感じられる「関係性」、そして自分にはできると感じられる「有能感」です。
ここで大事なのは、自律性は「ひとりでいること」や「誰にも頼らないこと」とは違う、という点です。自律性とは、自分の行動を自分で納得して選んでいる感覚のこと。誰かと一緒にいても、それを自分で選んだと思えていれば、自律性はちゃんと満たされます。
そしてこの理論では、自律性と関係性は綱引きの関係ではなく、互いを支え合うものと考えられています。自分で選んでいる感覚がある人ほど、相手と安心してつながれる。つながりに安心がある人ほど、自分で選ぶ余裕が持てる。両方がそろったとき、人は無理なく誰かのそばにいられるのです。
ひとり暮らしの人が、結婚後も「ひとりで過ごす時間」を求めるのは、まさにこの自律性の欲求を守るためでしょう。誰にも説明しなくていい時間、何をしても何もしなくてもいい時間。その中で人は「私は自分で選んでここにいる」という感覚を取り戻します。それは結婚生活を拒む壁ではなく、結婚生活に自分の意思で戻ってくるための玄関なのです。
面談室の土曜日に聞いた「鍵付きの余白」
少し前の土曜日、夜七時を回った面談室でのことです。ひとり暮らしの長い女性の会員さんが、紙コップのお茶を両手で包んだまま、少し言いにくそうに切り出しました。
「結婚はしたいんです。でも、週に一晩だけ、誰とも話さない夜が欲しくて。これって、結婚に向いてないってことでしょうか」
私は首を横に振りました。向いていないどころか、それを言葉にできる人は、結婚生活の続け方をすでに知っている人です。自分がどんなときにすり減り、何で回復するのかをわかっている。その自己理解は、ふたりで暮らすうえで何よりの財産になります(言えずに我慢を重ねるほうが、関係はずっと苦しくなります)。
彼女が求めていたのは、広い部屋でも、別々の寝室でもありませんでした。必要なのは、扉の内側から自分で鍵をかけられる時間です。鍵付きの余白があると先にわかっていれば、人は安心して扉を開けて、相手のいる居間へ出ていけます。
ひとり時間を求める気持ちは、近づくほど距離を取りたくなる回避型愛着と混同されることがあります。けれど両者は向きが違います。回避は親密さそのものから身を引く動き。鍵付きの余白は、親密さを長く保つために、自分で呼吸を整える動きです。
平安の通い婚が教える、離れて結ばれる形
和の歴史をひとつだけ振り返ると、平安時代の貴族の結婚には、夫が妻のもとへ通う「通い婚」と呼ばれる形がありました。夫婦が同じ屋根の下で毎日を過ごすことだけが、結婚の姿だったわけではないのです。
夜を共にし、朝には別れ、また次の訪れを待つ。その間には、それぞれのひとりの時間が当たり前のように流れていました。恋の歌のやりとりが豊かに育ったのも、会えない時間があったからこそでしょう。
もちろん、昔の形をそのまま今に持ち込もうという話ではありません。言いたいのは、近づく時間と離れる時間の両方があってこそ、関係は呼吸できるということです。四六時中くっついていることが愛情の深さの証明ではないし、離れている時間が冷たさの証拠でもありません。
ひとり暮らしを経験した人は、この呼吸の大切さを体で知っています。自分の機嫌を自分で取り戻す方法を、毎晩の暮らしの中で身につけてきた。だからこそ、結婚後もその方法を手放したくないと考えるのです。結婚そのものを最初から選択肢の外に置いてしまう先取り棄権の心理とは、ちょうど逆向きの動きと言えます。結婚後の条件を具体的に思い描くのは、結婚を自分ごととして考えているからこそです。
まとめ:ひとり時間は、ふたりの時間の土台になる
結婚したい。けれど、ひとりの時間も守りたい。ひとり暮らしの未婚者の約半数が挙げたこの条件は、わがままでも、結婚への迷いでもありません。自己決定理論が示すように、自分で選んでいる感覚とつながりの安心は、支え合って育つものです。
ひとり時間を求める人が、それを相手に伝えるのをためらう必要はありません。伝えるときは「離れたい」ではなく「戻ってくるために必要」という言葉を選ぶこと。そして相手にも同じ余白があることを、先に認めておくこと。結婚後の過ごし方については夫婦でも一人の時間が欲しいときの考え方でも書いています。
ひとりで満ちていられる人は、ふたりでも満ちていける。
今月のいい夫婦の日を前に、この一文をそっと胸に置いてみてください。
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