社会・論考

「結婚するつもりはない」
2割超えの、その手前にある心理

関口美奈子

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。結婚相談所「エースブライダル」を運営しています。
今日はニュースから入ります。国立社会保障・人口問題研究所の調査で、18〜34歳の未婚者のうち「一生結婚するつもりはない」と答えた人が、男性24.0%・女性21.5%。調査開始以来、初めて男女ともに2割を超えました。こども家庭庁の調査でも、未婚者の35.1%が「結婚するつもりはない」と回答しています。
多くの報道は、この数字を「経済的な不安」や「価値観の変化」で説明します。たしかにそれも本当です。でも私は、現場で何万人もの「結婚したくない」と言う人に向き合ってきて、別のことに気づいています。この数字の一部は、本当の無関心ではなく、ある種の「防衛」です。今日は、その防衛の仕組みを、少し丁寧に解きほぐしていきます。
先にお伝えしておきたいのは、この話は数字の良し悪しを採点するものではないということです。少子化を個人の意欲の弱さに帰してしまうと、本当の背景を見誤ります。あくまで、恋愛心理の現場から見える「心の仕組み」の話として読んでください。

「結婚するつもりはない」を、経済の話だけで終わらせない

「結婚するつもりはない」という回答を見ると、多くの人がまず給与や物価を思い浮かべます。もちろん経済的な事情は実在します。けれど、経済だけで説明しようとすると、ひとつ見落としが生まれます。お金の不安と、結婚への無関心は、必ずしも同じ場所にはないということです。

実際、相談の現場では「お金に余裕ができたら結婚したい」と言っていた人が、余裕ができたあとも動かないケースを何度も見てきました。条件が整っても気持ちが動かないなら、止めているのはお金ではなく、別の何かです。晩婚化が進む本当の理由も、この「条件では説明がつかない部分」に深く関わっています。

こういう場合、相談所の面談では、条件の話を一度棚上げにして、こう聞くようにしています。「もし今すぐ、理想の相手から選んでもらえるとしたら、どうしますか」。多くの人は、ここで一瞬、言葉に詰まります。お金の話をしていたはずなのに、答えたのは別の感情だったことに、自分で気づくからです。

負ける前に、自分から降りる。「先取り棄権」という防衛

心理学には「自己ハンディキャッピング」という、実証された考え方があります。失敗したときに自分を守るため、あらかじめ不利な条件を自分でつくっておく心の働きのことです。試験前に「全然勉強してないから」と言っておく人の心理と、同じ構造です。

結婚においてこれが起きると、「先取り棄権」という形をとります。「選ばれなかった」と知るのは痛い。でも「最初から選ぶ気がなかった」のなら、その痛みは生まれません。だから、勝負の結果が出る前に、自分から土俵を降りる。これは弱さではなく、心が痛みを避けるために編み出した、ごく合理的な仕組みです。

自己ハンディキャッピングの研究で繰り返し示されているのは、この防衛が自信のない人ほど強く働くという点です。自分の価値を賭ける場面が怖いほど、先に賭けから降りておきたくなる。結婚は、容姿や収入だけでなく、人格そのものを値付けされるような怖さを伴う場面です。その怖さが強い人ほど、先取り棄権という選択に、自然と手が伸びてしまうのです。

「結婚するつもりはない」と言うほうが、実は楽な理由

「結婚したいけどできない」と「結婚するつもりはない」。どちらが心に優しいか、考えてみてください。前者は、自分の意志どおりにならなかった現実と、ずっと向き合い続けることになります。後者は、結果ではなく、最初から自分の意志だったという物語に書き換えられます。

物語を書き換えれば、傷つかずに済む。だから「結婚するつもりはない」という言葉は、本音である場合もあれば、本音を守るための言い換えである場合もあります。調査の数字は、その両方を混ぜたまま、一つの割合として出てきます。結婚の資格化で書いた「まだ早い」という言い回しも、根っこは同じです。動けない理由を、自分の意志であるかのように言い換えることで、心は静かに守られているのです。

数字が増えるほど、その言葉は選びやすくなる

ここに、もう一つの力が働きます。2割という数字は、もう珍しい意見ではありません。周りに同じ選択をしている人がいると知った瞬間、その選択は「浮いた意見」から「普通の選択」に変わります。これは社会心理学でいう同調の働きで、特別な弱さではなく、人間に共通する自然な反応です。

だからこそ、この数字の増加を「結婚したくない人が増えた証拠」とだけ読むのは早計です。本当は「結婚したくないと言いやすくなった」人が増えた、という側面も含まれているはずです。言いやすさが増えるほど、先取り棄権を選ぶ人は、さらに増えていきます。

この構造が怖いのは、数字自体が、次の数字をつくる材料になることです。調査結果が報道されるたびに、「自分だけではない」という安心が広がり、先取り棄権という選択肢の心理的な価格は、少しずつ下がっていきます。価格が下がれば、選ぶ人はさらに増える。これは誰かの意図でそうなっているわけではなく、数字と報道と防衛心理が、静かに連動して起きている現象です。

まとめ:棄権ではなく、順番を変えるだけでいい

「結婚するつもりはない」という答えの背後には、経済、価値観、そして「選ばれない痛みを避けたい」という防衛が、複雑に重なっています。数字が示しているのは、結婚への関心が消えたことではなく、関心を見せることへのコストが上がったということかもしれません。

もしあなたがこの防衛に心当たりがあるなら、責める必要はまったくありません。先取り棄権は、あなたの心を守るために、きちんと機能してきた仕組みです。ただ、守り続ける必要がなくなった今、順番を一つだけ変えてみてください。「選ばれるかどうか」より先に、「選びにいくかどうか」を決める。棄権を降りるのに、強さは要りません。順番を変えるだけで、景色は動き始めます。

2割という数字は、これからも報道のたびに注目されるでしょう。そのたびに、自分には関係のない社会現象として眺めるのではなく、「もし自分にも先取り棄権の心当たりがあったら」と、一度だけ胸に手を当ててみてください。そこから動き出す人を、私はこの場所でずっと見てきました。

よくある質問

「結婚するつもりはない」と答える人は、本当に結婚に興味がないのですか?
必ずしもそうとは限りません。心理学の「自己ハンディキャッピング」という考え方にあるように、選ばれない痛みを避けるため、結果が出る前に自分から『興味がない』という立場を取ってしまうことがあります。本音である場合と、本音を守るための言い換えである場合が、混在していると考えられます。
この調査結果は、どう受け止めればいいですか?
数字が増えたこと自体を問題視するより、『結婚に関心を見せることのコストが上がっている』という社会の空気の変化として受け止めるのがよいと思います。個人の意欲が弱いという話にしてしまうと、本当の背景を見誤ります。
『先取り棄権』から抜け出すには、何から始めればいいですか?
強い決意は必要ありません。『選ばれるかどうか』を先に心配するのではなく、『選びにいくかどうか』を先に決めてみてください。結果を先取りして防衛する前に、まず一歩だけ動いてみることが、棄権を降りる最初の形になります。

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