社会・論考

離婚を考えた人、4割
その後に起きる「期待の格下げ」

関口美奈子

こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
今日もニュースから入ります。20〜50代の既婚女性1,000名を対象にした調査で、約4割が離婚を検討した経験があると答えました。踏みとどまる最大の理由は「経済的不安」。そして、約半数が夫に期待せず、「仮面夫婦」や「同居人」と割り切って暮らしている実態も、同じ調査で明らかになりました。
多くの報道は、これを「不幸な我慢」として語ります。たしかに、そう感じている人もいるでしょう。でも、婚活・恋愛の現場でのべ3万人以上と向き合ってきた中で見えてきたのは、もう少し複雑な仕組みです。別れない選択の裏には、我慢だけでなく、ある種の「調整」が働いていることがあります。今日は、その調整の正体を読み解きます。
この話は、別れることと別れないことのどちらが正しいかを決めるものではありません。あくまで、多くの人の中で実際に起きている心の動きを、恋愛心理の視点から読み解くものとして聞いてください。

離婚を考えた4割と、実際に別れる数のギャップ

離婚を検討した経験がある人が約4割いるのに対し、実際に離婚に至る人はその一部にとどまります。このギャップを単純に「決断力の差」として語る人もいますが、それだけでは説明がつきません。経済的な事情は確かに大きな壁ですが、壁の高さだけでは、人がその後も変わらず暮らし続けられる理由の全部にはなりません。

踏みとどまった人の約半数が「仮面夫婦・同居人」という形を選んでいるという数字は、単に別れられなかった結果ではなく、その状態で暮らし続けるための、心の調整が起きていることを示しています。

もし経済的事情だけが理由なら、不満を抱えたまま苦しみ続ける人が大多数になるはずです。しかし実際には、仮面夫婦・同居人として割り切り、比較的落ち着いて暮らしている人も一定数いる。この落ち着きのほうが、実は注目すべき部分です。不幸の延長としてではなく、現実と折り合いをつけた結果として関係が続いているケースが、数字の中に混ざっていると考えるほうが、実態に近いはずです。

踏みとどまる理由は、経済だけではない

経済的不安は、調査で最も多く挙げられた理由です。ただ、現場で見てきた限り、経済だけが理由のすべてではないケースが多くあります。もう一つ静かに働いているのが、相手への期待そのものを下げることで、落胆を減らすという心の動きです。

期待し続けて落胆するより、期待しないことで心を守る。これは特定の人だけに起きる特殊な反応ではなく、結婚生活の中で自然に起きる防衛的な調整で、意識して選んでいる人もいれば、気づかないうちにそうなっている人もいます。

この調整自体は、心理学でも知られる自然な働きです。得られないものへの期待を保ち続けると、心は常に落胆にさらされます。期待の水準を現実に合わせて下げることは、むしろ心を守るための、理にかなった反応なのです。

「期待の格下げ」という生き延び方

相手に向ける期待の水準を、関係を続けられる程度まで静かに下げていく動き、期待の格下げは、崩れそうな関係を保つための現実的な調整です。格付けが下がった株のように、期待も一度下がれば、それ以上の失望は起きにくくなります。下げたあとの基準は、その人なりの新しい当たり前として、時間をかけて静かに定着していきます。

仮面夫婦に疲れたときで書いた疲労感は、この格下げがうまく機能していないときに表に出てくるものです。格下げが安定している間は、外から見ると同じ「仮面夫婦」でも、本人の心の負担はそれほど大きくない場合があります。

重要なのは、格下げそのものが悪いことではないという点です。すべての期待を高いまま維持しようとすることは、現実との摩擦を増やすだけです。関係の実情に合わせて期待を調整する柔軟さは、長く関係を続けるための一つの技術でもあります。結婚を始めたばかりの頃に描いていた理想像と、何年も暮らしたあとの現実が完全に一致することは、むしろ稀なことです。

なぜ「期待の格下げ」が、仮面夫婦に見えてしまうのか

期待を下げた関係は、傍から見ると愛情の薄い関係に見えます。会話が減り、触れ合いが減り、同じ部屋にいても二人の間に距離があるように映る。けれど、本人にとっては、それが破綻を避けるために選んだ、ぎりぎりの均衡である場合もあります。

ここで注意したいのは、格下げが「選んだ調整」なのか「気づかないうちに諦めた結果」なのかという違いです。前者は、本人がその距離感を受け入れて暮らしているので、比較的安定します。後者は、本人も気づかないまま消耗が進み、ある日突然限界が来ることがあります。

この違いを見分けるのは簡単ではありません。どちらも、見た目には同じ「会話の少ない夫婦」として映るからです。違いは、本人が自分の心に向ける注意の中にしかありません。だからこそ、周りからのアドバイスが的外れになりやすい場面でもあります。見た目だけで「冷めた夫婦」と判断されても、本人にとっては意図した均衡である場合があるからです。外からの心配や助言が、せっかく保たれていた均衡を乱してしまうことも、現場では少なくありません。

まとめ:別れないことを、我慢の言葉だけで語らない

離婚を検討した経験がある人は4割にのぼり、そのうち多くが「期待の格下げ」という調整を経て、今の関係を続けています。これは弱さでも、諦めでもなく、壊れそうな関係を保つために人が自然に行う、心理的な工夫のひとつだと言えます。

もし今、自分の結婚生活に当てはまると感じたなら、まずそれが「選んだ調整」なのか「気づかないうちの諦め」なのかを、焦らず一度、自分の心に聞いてみてください。離婚すべきか迷ったときの答えも、この見分けから始まります。

調査の数字は、離婚を選ぶ人も、別れない選択をする人も、どちらも等しく真剣に関係と向き合っている結果だということを示しています。4割という数字を、不幸の指標としてだけ読むのではなく、多くの人が静かに行っている調整の証として読んでみてください。その調整が自分にとって無理のない範囲であるかどうかを、時々振り返るだけで十分です。

よくある質問

「期待の格下げ」とは、具体的にどういう心理ですか?
相手への期待の水準を、関係を保てる程度まで下げていく心の動きです。期待し続けて落胆するより、期待を下げることで落胆そのものを減らす、防衛的な調整として起こります。
仮面夫婦として暮らすのは、よくないことですか?
一概には言えません。本人が納得してその距離感を選んでいる場合は、比較的安定して続けられます。一方で、気づかないうちに諦めが積み重なっている場合は、ある日突然限界が来ることがあるため、見分けが大切です。
自分が「選んだ調整」なのか「諦め」なのか、どう見分ければいいですか?
今の距離感に、自分なりの納得があるかどうかを振り返ってみてください。納得のうえで選んでいるなら比較的安定していますが、理由が思い出せず、ただ疲れだけが残っているなら、諦めに近い状態かもしれません。

関連ページ

← コラム一覧 仮面夫婦に疲れたとき|形だけの関係とどう向き合うか 離婚すべきか迷ったら|決め手と後悔しない覚悟