こんにちは。恋愛心理研究家の関口美奈子です。
今日はニュースから入ります。最新の調査で、夫婦それぞれが相手の家事に自己採点をつけたところ、妻が夫の家事につけた満足度は54点、夫が妻につけた満足度は81点という大きな差が出ました。妻の家事負担は平均7.5割にもなるのに、妻の採点のほうが低い。理想の分担は男女とも「5:5」が1位なのに、7割以上の夫婦が分担ルールを決めていません。
ここで多くの人は「夫がもっとやればいい」で話を終えてしまいます。でも私は、この数字の裏に、もう一つの仕組みがあると見ています。二人は同じ家事を見ているはずなのに、採点の目盛りそのものが、もともとズレているのです。今日はその仕組みを読み解きます。
この話は、男性と女性のどちらが正しいかを決めるものではありません。二人とも、自分の立場からは正しく採点しているつもりでいる、というところから出発します。先にお伝えしておきたいのは、この話は特定の夫婦や調査対象を評価するものではなく、心理の仕組みとして読んでほしいということです。
「家事分担の調査」が映し出した、点数のねじれ
この調査の面白さは、分担の比率そのものより、採点のねじれにあります。実際にやっている量は妻のほうが明らかに多いのに、相手への満足度は夫のほうが高い。もし採点が公平なら、負担が軽い側ほど相手に感謝して高得点をつけ、負担が重い側ほど厳しい点をつける、という今回の結果とは逆の形になってもおかしくありません。
けれど現実はねじれています。負担の量と、相手への評価の高さが、反比例するように出ているのです。これは、どちらかの性格が悪いという話ではなく、二人がそれぞれ違う基準で採点しているからだと考えると、辻褄が合います。
理想の分担比率が男女とも「5:5」で一致しているという点も見逃せません。目指す方向は同じなのに、7割以上の夫婦が具体的なルールを決めていない。方向が一致しているのにルールがないという状態は、採点のズレをそのまま放置する温床になります。目指す数字が同じだからこそ、途中の測り方だけを早めにそろえておく価値があります。
「自分目盛り」という、気づきにくいズレ
人は、物事を評価するとき、自分の経験や負担量を基準の目盛りにして測る傾向があります。心理学では、自分の貢献を高く見積もり、相手の貢献を低く見積もりやすいという、実証された偏り(自己奉仕バイアス)が知られています。
夫婦の家事でも同じことが起きます。自分目盛りとは、自分が担っている負担量を基準にして、相手の貢献を測ってしまう心の働きのことです。目盛りの原点が、客観的な家事全体の量ではなく、自分がやっている量に置かれてしまう。この原点のズレが、同じ現実を見ているはずの二人に、まったく違う点数をつけさせています。
厄介なのは、この目盛りが本人にも見えていないことです。採点をつけるとき、誰も「自分の負担量を基準にしています」と意識してはいません。ただ自然に、今まで積み重ねてきた自分の経験をもとに、相手を測っているだけなのです。
なぜ「やっている側」ほど、相手を低く採点してしまうのか
家事の7.5割を担う側にとって、自分の目盛りはすでに大きく伸びています。その伸びた目盛りを基準にすると、相手がこなす2.5割は、どうしても小さく見えてしまいます。共働きの家事分担でもめない方法で書いた「手伝う」という言葉への違和感も、根っこはここにあります。全体を把握している側からすれば、相手の貢献は、全体に対してあまりに小さく映るのです。
さらに、負担の多い側は、目に見えない家事の存在にも気づきやすい立場にいます。献立を考える、在庫を把握する、予定を調整する。こうした見えにくい作業まで含めて自分の目盛りを伸ばしているぶん、相手の目に見える作業だけでは、どうしても採点が甘くなりません。
これは怒りや不満からくる厳しさではなく、見ている範囲が単純に広いことの結果です。全体の管理まで含めて自分の負担を数えている人にとって、相手が担っているのは全体のうちの一部に過ぎません。その一部だけを見て高く評価するのは、むしろ難しいことなのです。
なぜ「やっていない側」ほど、相手を高く採点してしまうのか
反対に、家事の2.5割しか担わない側は、家事全体にどれだけの量があるのかを、体感として知りません。自分が担っている少ない量を基準に目盛りを作っているため、相手がこなしている残りの7.5割は、実際よりずっと大きな貢献に見えます。
悪気があってそう感じているわけではありません。自分の目盛りの範囲でしか、相手の努力を測れないというだけのことです。だからこそ、満足度の高さは、相手への感謝の深さというより、自分の目盛りが小さいことの裏返しである場合があります。高い点数をつけている側は、自分が十分に評価していると思っているぶん、相手がなぜ不満を感じているのか、なかなか理解できません。この理解のずれが、話し合いをさらに難しくします。「十分やっているつもり」と「全然足りていない」が、同じテーブルの上で同時に真実として存在してしまうのです。
まとめ:採点をそろえるには、目盛りを見せ合うこと
夫婦の家事満足度に差が出るのは、どちらかが悪いからではなく、二人が持っている目盛りそのものが違うからです。負担の多い側は目盛りが伸びているぶん相手を厳しく見積もり、負担の少ない側は目盛りが小さいぶん相手を甘く見積もる。これは自然な心の働きであり、責める材料にはなりません。
大切なのは、相手を採点し直すことより、自分の目盛りを、一度相手に見せることです。見えない家事を含めてどれだけの量があるのか、お互いの目盛りを並べてみる。理想の分担が「5:5」であっても、目盛りをそろえないまま進めば、同じ現実を見ても、また違う点数がつきます。採点の前に、まず目盛りを合わせることから始めてみてください。
これから結婚を考えている人にとっても、この話は無関係ではありません。結婚後にどちらがどれだけ担うかという話し合いを先延ばしにせず、早いうちから「見える家事」と「見えない家事」の両方を言葉にしておく。その一手間が、後からの採点のズレを小さくしてくれます。